写真・文/岩瀬孝文 photo & Text by Yoshifumi Iwase
『好ましい経験となった海外遠征』一戸くる実(CHINTAI)
夏のシーズンが早い時期から胸に秘める想いがあった一戸くる実(CHINTAI)。
「サマーグランプリの後半戦になると強豪選手がこぞって出場してきます。そこで、どれくらい食らいついていけるかが勝負なんです。これまでのように、強い選手達がたくさんいる凄いなと、ぼーっと眺めているような状態ではいけません」
そう言い、思い切り気を引き締めていた。
欧州の強豪選手と列強のチームから学ぶべきものがあると、確実に認識していた。
無論、厳しく言えば新参に近い若手選手は世界のトップ10以内に位置するジャンパーからすれば、その存在を目の中に入れてくれるかどうかもわからない。
「だから尚更、なんです」
さらに直立で姿勢よく、唇をかみしめた。
山形蔵王サマージャンプの頃までは速やかに飛んでいたような気がしていたが、本州各所のノーマルヒルを経て、白馬のラージヒルで飛んでみると、現状における欠点があからさまになった。
「すべてがダメなんです。アプローチ姿勢からスキーの乗り方、踏み切り、あまり得意とはしない空中姿勢そして着地まで、まだまだなんです」
白馬において、集中を逸脱させられる場面に出くわしたりもしたが、何事も経験のひとつと心の内を整えて飛んだ。
何事も経験である。
とはしたものの、それまでのサマー開幕からの勢いが、すっと消えてしまった。
「なんでしょうね、焦りではないのですが、冬に向けてどのようにしていけばよいか、いまひとつ分かりにくくなっています」
目の前には技術的な壁がまた見えてきたようだ。
ただ、悲観ばかりしていてもしょうがない。
「今季のターゲットは、出場資格が最後になるジュニア世界選手権で個人戦のメダルを獲得することです。カナダ・バンクーバーで団体戦は金メダルでしたが、個人戦が4位に終わって、ものすごく悔しくてたまらなくて」
いきなり、その闘志に火がつけられた。
そのためには、あれもやりこれもやってと、またいわば堂々巡りにもなりそうだが、ときにクールな自分をしっかりと見つめて、なのである。
若鮎、くる実さん、いよいよ世界に打って出る。そのための個人戦、表彰台だ。
その上で全日本女子メンバーに定着して、W杯で限りなくひとケタ台を狙っていこうとする。
であるからそのためには、こうして、ああしてみて…。
彼女の頭の中は、いま新型欧州タイプのジャンプテクニックでいっぱいだった。
2023年9月、白馬でのサマージャンプ大会に出場した際の一戸くる実。