写真・文/岩瀬孝文 photo & Text by Yoshifumi Iwase
『憧れのドイツライフ』
中村直幹(フライングラボラトリー)
欧州を拠点にジャンプトレーニングを続ける、個性豊かな中村直幹選手だった。
「ドイツへ移住しようと思ったのは、スキージャンプの最新の情報を得て、W杯の上位にどんどん進んでいこうとしたから。最初は、ミュンヘン市に滞在しながら近隣の街を探し、ジャンプ台があるベルヒデスガーデンの隣町に移住しました。」
これはどういうことかと言えば、ジャンプに関してより良い環境を求めて、それならば自分のベースを欧州の本場ドイツに移してしまおうと飛躍したナオキングだ。
その持ち前の明るさと、堅実なドイツ人に好まれる真面目さが、その活路を助けてくれた。
「ミュンヘンからだんだんと南下して、オーストリアのザルツブルグで南側の国境を隔て、ベルヒデスガーデンに入り、そこの隣ですね。ここは高級リゾート地だけに年齢の高いおじいさん、おばあさんたちがたくさん住んでいて、静かで過ごしやすく感じました。」
もちろんジャンプ週間の舞台であるインスブルックやガルミッシュ・パルテンキルヘン、さらに南へ降りて行き、ビショフスホーフェンシャンツェには車で30~40分の距離にある。
「地元の紅茶会社のヘルメットスポンサーまでみつかって、ありがたいことです。それも、いま住んでいる街の皆さんが、そこに声がけしてくれたおかげなんです」
移動のための車を借り、トレーニングのためのスポーツクラブなどを探しながら、それは、国内にいるときよりもおおらかに過ごしているが見て取れる。
もちろん英語はもとより、ジャンプシーンで主流となるドイツ語も日々上達に至る。
「毎年ひんぱんに行われるルール改正をとっさに仕入れて、検討を重ねてその対策を練り上げていく。それも日本にいる頃には、半年くらいも遅れて入ってくる情報をなんです。それに対応したマテリアルにチェンジしてみたり、スーツであれば新しい寸法に縫ってテストしてみたりと、なかなか機動力が出てきました」
スキーは青白カラーのドイツ製フリューゲの最新モデルを入手、そこに新ルールに対応し、小まめに手を加えながら、自分のジャンプスタイルにフィットさせて飛んでいる。
ジャンプ仲間におけるチームROYとの連携、それと名コーチの誉れ高いヤンネ・バータイネンによるフィンランド基礎技術などをじっくりと学び、鷹揚に構える。
それも同期で同年齢の小林陵侑と高梨沙羅とともに上昇を願っている。
「オフには少しばかり札幌に帰りますが。ドイツの山奥で、午前中の陽光を浴びて、近所の人たちとお茶をするなんて、ほんとうに安らぐ暮らしをしています。その皆さんが応援して下さるのが嬉しくて、こういうのも励みになって有難いな~と。」
いよいよ街の住人から「なんだか日本人が住みだしたよ」と珍しがられ、幾度か挨拶を交わしているうちにお茶に誘われ、「そうそうあのジャンプの試合はどうだった」と聞かれ、その感想をドイツ語で優しく話をしてすぐに打ち解けていった。そのおおらかな人間性が国を超えて地元民の心を掴んだ。これも彼の人徳に他ならない。
「めざす成績はW杯トップ10位以内です、当然、冬にはROYも上位にあがってきますから、それも充分に意識しながらですね(笑)」
今季は、そこから虎視眈々と表彰台を狙っていくシーズンとなる。
そんな意気揚々とした中村直幹のドイツ生活であった。(岩瀬孝文)
2023年8月、札幌・大倉山でのサマージャンプ大会に出場した際の中村直幹。