岩瀬孝文の View Point ②

『名湯野沢温泉に育まれ』内田ここな(野沢温泉中→長野清泉女学院高)

信州の安らぎの温泉場として有名な野沢温泉村。
ここは昔から数多のスキー選手を生み出してきた。

野沢温泉村のスキー場運営などを取り仕切る株式会社野沢温泉社長の片桐幹雄さんは、アルペンスキーのダウンヒル選手としてW杯へ果敢にチャレンジしていた。その後も五輪で活躍した千葉信哉選手などたくさんのスピード系アルペン選手を育成し、日本の滑降部隊を育て上げた。

その選手育成能力に長けた野沢温泉村には有数のアルペンスキーコースとともに、W杯複合が開催されたジャンプ台がある。冬季五輪ノルディック複合日本代表の森敏(東海大スキー部監督)らは当時、この地元野沢温泉シャンツェをベースにとことん練習に明け暮れた。また、女子ジャンプでは新進気鋭の丸山希(北野建設)が、その礎に育まれ、世界へ大きく羽ばたいている。

そんな伝統あふれる野沢温泉の、たいそうあずましい温泉宿が内田屋さんだ。そこにひとり女子高生がいた。

野沢温泉中の頃から札幌でも飛んでいて、ここなさんという名は、よく耳にしていた。

いつもどのような場面でも自然体で、風に逆らうことなく素直に飛んでいく様子が見て取れた。このままどのような良い選手になっていくのだろう、と思いつつ。

ただ、進学先は地元から通えるスキー強豪の飯山高ではなかった。

「英語が、勉強したかったんです」
寡黙ながらも、芯の強そうな声色が飯山シャンツェに、心地好く響いた。

 「とすると、欧州を狙うんだね。遠征で必要にもなるから英語」
と返すと、しばらく黙りこくった。

「いえ、そういうわけではないのです。いつも、英語を使いたくて」
英語を使いたいとは、外国人スキーヤーを相手に。これは至極、身近なことである。最近とみにインターナショナルな野沢温泉村だからだ。外国人スキーヤーなどが歴史ある温泉や日本の冬文化と民宿に興味を抱き、大勢やってきていた。

ならば、スムーズなコミュニケ―ションを取りたく思うのも自然の理だ。

まだまだ秘めた能力はある、むしろジャンプにおいて伸び代にあふれている。
この日は木島平村から飯山高に進んだライバル選手達に押されて3位に甘んじたが、それで終わりはしないことだろう。

ちょっぴり異色な、ここなさんの勇躍ジャンプに静かな期待を寄せてみたい。(文&写真/岩瀬孝文)



2023/06/25(日)飯山市サマージャンプ大会に出場した際の内田ここな。