岩瀬孝文の View Point ⑨

写真・文/岩瀬孝文 photo & Text by Yoshifumi Iwase

『ノリさんと呼ばれて』 葛西紀明(土屋ホーム)

いつになく、元気だなと思えた。
しかし、記者の人たちの取材依頼にお断りをしてすぐにチーム車へ歩いていった。

というのもヨーロッパ遠征合宿からの帰国途中で喉を痛めてガラガラ声らしく、話がしにくい。とのことだった。
冬の入り、たまには、そういうこともある。

いつもの軽いジョークと笑顔に包まれるオチを交えた軽快なノリさんの語りを聞きたくて、集う新聞記者の皆さんは少しばかり拍子抜け。しかもこのところサマーの試合から連続4位を記録していただけに、その秘密も聞きたかった。

 思うに、夏場のトレーニングが成功していた。気になる腰の痛みもない。
「いい感じですよ。でもね、年齢のせいなのか、体重が落ちにくくなってきました」
唯一のマイナス要因はウエイトの増減であった。
「いや、これは悔しすぎる。どうして、いつも4位ばっかりなのさ(笑)」
と言い放った10月後半の試合、札幌大倉山でのこと。
そして、じゃあと、その場に余韻を残してにこやかに去っていく51歳。

欧州では名実ともに驚異のジャンパーと記され、文字通り『レジェンド』と呼称されている。そのものスーパーでこの上ないリアルなレジェンドなのである。

2024年2月のW杯札幌大会には、前年に続いて国枠で出場する勢いにあふれている。
それもファンにとってはうれしくてたまらない出来事だ。やはりW杯にはノリさんの姿が良く似合う。また日本国内においても、ヨーロッパのジャンプファンもすべてが、葛西紀明選手の熱いジャンプとそれにかける強い想いに視線を送っている。

 まれに、ほんのちょっぴり近況を聞きたくて、葛西さんのそばに行くことがある。
「イワセさんなら、なんも聞かなくてもいいでしょ、もう、好きに書いていいですよ~」
そんな風に目くばせしながら言われると、それはもう胸が高鳴りを覚えてしまうのは、いやはや困ったものだ。
ならば、つとめて賢明に綴らなければと、初心に帰ることができる。

さらにシンプルに付け足しておく。
その昔の現実として、当初におけるコーチ就任に対して『年下のコーチから何を学ぶのだ』と抵抗をみせたフィンランド人の名指導者ペッカ・ニエメラから伝授されたフィンランド基礎技術だったが、3日間のタイムラグを経て開き直って、それを素直に身に受け、応用を効かせて自分なりのオリジナル技術を開発。すぐに世界選手権のメダルと冬季五輪の銀と銅メダルを獲得してみせた。

そのもの華々しい復活を遂げて現在もなお飛ぶ、なのだ。
「ジャンプが大好きなんでしょうね、きっと」

はてさて、どこまで我々を楽しませてくれるのだろう、みんなの憧れの君、ノリさん。



2023年12月16(土) 名寄での国内大会に参戦した際の葛西紀明。